認知症の母と同居でドアに南京錠・・・

       

《和子は又々こんな記事を見た~》

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 保健師が外すよう求めたのはなぜか…

        娘がなかなか応じなかった理由

              保健師がドアの隙間から声かけ

 地域の民生委員から地域包括支援センターに、「高齢女性と娘が住む家の

ドアに南京錠がつけられている」という情報が寄せられた。民生委員からの

連絡を受けて、地域包括支援センター保健師社会福祉士がその家に

向かった。 集合住宅の出入り口のドアノブと家の双方を頑丈なひもで

くくり、輪っかにして南京錠をかけていたが、顔が出せる位に少し開いていた。

インターホンを押しても反応がないため、声をかけてみると、高齢女性が

ドアの近くまでやってきた。保健師が「Aさんのお宅ですか? こちらの鍵が

かかっていますが大丈夫ですか。おひとりですか」などと声をかけ、

この地域を担当しており、住民の健康確認のため、地域の見回りを

していることを説明してみる。 女性はニコニコしているが、こちらの

言葉への返答はない。家族の帰宅予定時間や食事摂取状況、通院、困り事の

有無などを聞いても「わからない」と繰り返すばかりで、理解力の低下が

うかがわれ、意思疎通が困難だった。ドアの隙間から見える範囲では、

体にアザなどの目立った外傷はなく、やせてもおらず、尿臭もなく、

衣服も清潔であること、歩行可能であることを確認できた。

15分くらいのやりとりのあと、民生委員に「娘さんが車で帰宅したら

教えてほしい」と伝えて、その場をあとにした。

娘に南京錠の危険を伝えると「勝手に出て大変なのよ」

 17時ごろに再訪問したときには南京錠は外されており、娘さんが応対に

出た。この地域の担当保健師であり、高齢住民の健康確認を

していることを説明し、「訪問時に南京錠が設置されていたため、火事や

地震などの災害時に本人が避難する上で危険であり、心配している」と

説明した。 すると娘さんは「災害のことはわかるが、私は仕事で忙しいし、

親の面倒もみている。あんたたちが何をしてくれるわけじゃないのに、

なんでそんなふうに言われなきゃいけないの」と、すごい剣幕で話された。

保健師は「お気持ちはごもっともですし、お母様の介護とお仕事を

両立しながら頑張っておられると私たちは思っています。今回、お母様と

少し話をいたしましたが、認知症を患っておられると感じました。認知症

症状によって、お母様が外に出てしまった場合を心配されているのでは

ありませんか?」と声かけをした。 娘さんは「そうなのよ。認知症

ひどくって、勝手に外に出て大変なのよ。この前なんか、隣の市まで行って

しまって、警察から職場に電話があった時はビックリしてしまったわ。

私も、こんな(南京錠)のつけたくないのだけど、仕方ないじゃない。

でも、火事や地震はいつ起きるか分からないし、自分も仕事で帰りが遅い時も

あるから、母のことが心配でもあるのよ」と返答があった。 保健師

「火事や地震などの災害時を心配されているのですね。

このように鍵を閉めてしまわれますと、ご本人の行動の制限になりますし、

何か起きたときにお母様は逃げることが難しくなってしまうので、

この南京錠は外していただけませんか。私たちもお母さんと娘さんのために、

支援できることは最大限しますのでお願いします」と伝えた。 -

母親は要介護3だが、娘の介護で穏やかな生活

 地域包括支援センターで働く保健師が語ってくれた事例です。

このようなケースは今まで何度か経験したそうです。

今回は応答がありましたが、ケースによっては門前払いが続くこともあり、

どのように対応すべきか悩んだといいます。 Aさんの娘さんと最初に

会った際、Aさんのバイタルサインの測定を行い、異常な症状や外傷が

ないこと、アルツハイマー認知症と診断され、内服薬の処方もあり、

介護全般を娘さんが担い、食事もとれていることを確認しました。  

そして、介護保険サービスの説明をしたところ、要介護3の認定を

受けているものの、娘さんの介護でAさんは穏やかに生活をしているため、

サービスは必要ないと思っていることがわかりました。一方、主治医から

介護保険サービスの利用を勧められていることもわかりました。  

そこで保健師は「娘さんがお仕事の間にデイサービスなどを利用されては

いかがですか?」と提案すると、「本人が嫌がるかもしれないし、すぐには

決めらないないから考えさせてほしい」と返答がありました。その後も、

保健師地域包括支援センター社会福祉士、主任ケアマネジャーと

チームを組み、3職種で訪問頻度を考慮しながら、Aさんの安否や生活、

身体状況の確認も含めて何度も足を運びました。そして、民生委員にも

協力をしてもらい、施錠状態やAさんの様子を見てもらいました。  

Aさんは、訪問時に声かけをした際に自分の名前は返答するのですが、

他の質問にはニコニコしながらうなずいたり、「わからない」と

繰り返したりすることが多く、中等度以上の認知症と思われました。

外からではありますが、身なり、皮膚の状況、やせ具合、尿臭の有無、

精神的不安定さなどを観察しましたが、特に重大な問題があるようには

みえませんでした。顔を見ると穏やかな表情で、食事は食べているようで、

日を変えての訪問で着替えをしていることも確認できました。

南京錠を常時かけているわけではない

 南京錠が常時かけられているのかどうか、観察しながら、

どれくらい虐待のリスクが高いかを見定めていきました。何度か時間を

変えて足を運んでみると、いつも南京錠がかけられているわけでは

ないことがわかりました。  娘さんは全く応答しないというわけでは

ないですが、玄関先に出てこない日もありました。話をするなかで、

娘さんは母親が認知症であることは理解しているものの、

徘徊(はいかい)が認知症の行動・心理症状(BPSD)に該当し、

予防のために生活環境を整えることが大切であることは、なかなか

理解してくれませんでした。 その後も保健師は、BPSDがあるため、

介護保険サービスを利用してデイサービス、ショートステイ、施設の

入居などを検討できることも説明しました。でも娘さんは「もう少し

考えさせてほしい」と返答するばかりでした。「母も穏やかに生活していますし、

私の責任でやりますからいいです」というのです。

友人の助言で介護保険サービスの利用を決める

 しかし、数日後に娘さんから地域包括支援センターに連絡があり、

「デイサービスとショートステイを利用しようと思うが

どうすればよいか」と質問がありました。娘さんは、職員が帰った後に

介護施設に勤務する友人に相談し、介護保険サービスを利用するように

助言されたようでした。そして、娘さんは「自分が頑張って介護を

しているが、サービスを利用しながら、母親と自分自身の生活両方を

大切にするように友人から言われた。災害時のことを考えると、やっぱり

心配だし……」と話されていました。 娘さんは、自分の仕事の際は

デイサービスを利用し、帰宅が遅くなる曜日はショートステイを活用する

ことに合意しました。しかし、友人の施設を利用するため、空きが出るのは

数週間後とのことでした。 ただ、保健師としては、空きが出る数週間後

ではなく、今すぐにでもサービスを利用してほしい思いでした。その間に

災害などの危険が迫るかもしれないからです。何か起きてからでは遅く、

何とか別の施設のデイサービスやショートステイサービスを利用し、

早めるよう説得しましたが、危機感が共有できず、娘さんは首を縦に

ふりませんでした。  「数週間後にはサービスも始まるし、家族の

ことなのに、何でそこまであなた方に言われなくちゃならないの。

何かあった時にあなた方が責任取ってくれるのかしら」と返答される

ばかりでした。そして、2週間後にデイサービスとショートステイサービスが

始まり、幸い、それまでの間に重大なことも起こらず、無事に

介護保険サービスが開始されたことが、ケースを引き継いだ

ケアマネジャーを通して確認ができました。

南京錠を使っていないことも確認することができました。

「お母さんのため」が行動の自由を奪い、危険につながる

 このケースで何が難しかったかと保健師にたずねたところ、

「介護者であるご家族が、お母さんのためと思ってされていることが、

実はお母さんの行動の自由を奪っていて、それが身の危険につながる

行為だと説明しても、あなたが介護できるのか?という話になってしまう。

確かに自分が家族の代わりに介護することはできない。また実際、娘さんは

介護をされていて、Aさんの生活に特に大きな問題が起きていないという

事実があり、その経験値で話がなされているところもありました。

介護保険サービスが始まるまでの間に、ドアから顔を出している

Aさんの首が挟まったらどうしようか、災害が起きたらどうしようかと

本当に心配でした」と語ってくれました。

状況改善へ根気強く働きかけた保健師

 このようなケースの場合、高齢者の命の危機をアセスメント

(影響評価)していきます。南京錠により行動の自由が奪われている一方、

生活上の介護はなされている、また、少しドアが開いていることで支援者の

危機意識も低下する場合もあり、非常に難しい判断を伴うケースだったと

思います。 保健師は、言葉を丁寧かつ慎重に選んで本人や家族と話を

していました。自分が何者であり、何のためにここにいるのか、

また「虐待」という強い言葉はできるだけ使用せず、相手に安心して

もらえるよう、徐々に互いの距離を詰めていきました。  

保健師は、3職種の目という多面性をもとに、この事態は本人と家族の

SOSであると捉え、できるだけ早くその状況が改善するよう根気強く

働きかけました。娘さん自身が自分の行為や、それによる影響にすでに

気づいていることを大切に扱うことで、娘さんの気持ちが

動かされたのではないかと思いました。

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