【特別篇】
♨️ 野趣溢れる蓮華温泉薬師湯
温泉から選ぶ登山「とっておき4泉」レポ
登山などで圧倒的な大自然を満喫したら、温泉に入り疲れた体を整えよう。
日常から離れ心身共に至福の時を過ごすのに温泉は欠かせないアイテムだ。
ところが混雑した山登りの帰りで、そのまま温泉も大混雑。自然を
満喫しきれない残念な思いをしたことはないだろうか。
激務をこなす毎日。せめて休暇は静かな山登りと温泉を楽しみたいと、
20年苦心を重ねた筆者が利用している温泉を紹介する。
【選定方法は3つ】
・混雑しにくい ・泉質がよい ・百名山などの登山後に入浴できる
■ 白馬塩の道温泉 倉下の湯
白馬塩の道温泉 倉下の湯
【温泉データ】
泉質:ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉
湯温:48.1℃
湧出量:1500L/分のうち、倉下の湯には45L/分注がれる
白馬大雪渓から流れる松川左岸で掘り当てた湯脈を源泉とする温泉。
開湯平成5年。フォッサマグナの西の端である糸魚川静岡構造線の
大断層の下に、なんと約2500万年も前に北アルプスが形成された時、
閉じ込められた海水を汲み上げる。
ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素イオン、メタホウ酸など
多くの成分を含み、湯量も豊かである。
🧿 倉下の湯にぴったりの山
登山の後に白馬塩の道温泉倉下の湯を利用しやすい山は以下となる。
・白馬岳 ・杓子岳 ・白馬鑓ヶ岳(はくばやりがたけ) ・唐松岳 ・五竜岳
糸魚川静岡構造線大断層があり温泉が豊富に湧く地域で、
提案する山の登山口にも温泉はあるが、倉下の湯は近くに登山口がない。
そのため名湯なのに他の温泉よりも穴場である印象だ。また、源泉温度が
高く湯量も豊富で冬も加温しない湯を堪能できる。ちなみに通常は
露天風呂であるが、冬季はビニールテントのようなもので覆われている。
♨️ 小蓮華山から少し下ったビューポイントからの後立山連邦
■ 韮崎旭温泉
♨️ 韮崎旭温泉外観
韮崎旭温泉
【温泉データ】
泉質:ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉(弱アルカリ温泉)
泉温:40.5℃
湧出量:200L/分
倉下の湯と同じく、フォッサマグナの西の端である糸魚川静岡構造線から
湧く温泉だが、岩盤が違い緑色凝灰岩(りょくしょくぎょうかいがん)が
結晶した「石英閃緑岩」(せきえいせんりょくがん)という岩盤から噴出し、
美しいエメラルドグリーンにほんのりと染まる湯を堪能できる。
湯温はやや低めだが、成分効能により体が温まる。噴出量湧出量も多く
湯舟から潤沢に溢れる湯と、細かな泡が特徴の炭酸泉。飲泉も源泉に限りできる。
🧿 韮崎旭温泉がぴったりの山
登山の後に韮崎旭温泉を利用しやすい山は以下となる。
・北岳 ・間ノ岳 ・農鳥岳(のうとりだけ) ・櫛形山 ・日向山
♨️ 山開きしたばかりの雪どけの大樺沢と北岳
♨️ シンボルの五丈岩がそそり立つ紅葉盛りの金峰山
韮崎に寄り道し温泉に入ることになるが、倉下の湯と同じく
韮崎旭温泉近くに登山口がないのと、近くに大型温泉施設があるため、
良質の湯かつ登山客が少なめである。ただし、かなり有名であるため
温泉マニアや常連が多く利用する。
■ 濁河温泉
♨️ 濁河温泉市営露天風呂入口
濁河(にごりこ)温泉市営露天風呂
【温泉データ】
泉質:硫酸塩炭酸水素塩泉(中性高温泉)
湯温:53.9℃
湧出量:759L/分
活火山御嶽山の飛騨側小坂登山口標高約1,800m、日本有数の高所に湧く
温泉として名高い。野天風呂のみで女性風呂は浴槽が1つであるが、
男性風呂は温度の異なる2つの浴槽がある。浴槽は広く原生林に囲まれ、
せせらぎと鳥の声を聞きながらの入浴は心身共に癒される。
🧿 濁河温泉にぴったりの山
登山の後に濁河温泉を利用しやすい山は以下となる。
・御嶽山 ・継子(ままこ)岳
一般道のロングドライブを経て高所にある濁河温泉は御嶽山への登山のみに
限られるが、一番登られるのは最短ルートの黒沢登山口(中の湯駐車場)で
あるため、静かな登山、静かな温泉が楽しめる。体力に不安があれば
継子岳の五ノ池小屋はじめ御嶽山の山小屋に宿泊し、ゆっくりと御嶽山を
堪能してから濁河温泉に浸かることをおすすめする。
入浴は17時受付まで。日帰りの場合は時間配分に注意しよう。
♨️ 継子岳小坂登山口を歩き出してすぐの見事な原生林
♨️ 継子岳から見える白山や北アルプスの山並み
■ 白馬岳蓮華温泉ロッジ
♨️ 内湯もあり宿泊も可能な白馬岳蓮華温泉ロッジ
白馬岳蓮華温泉ロッジ
【温泉データ】泉質は風呂により全て異なり5種類
01)薬師湯:酸性硫酸塩泉
02)仙気の湯:単純酸性泉
03)黄金湯:マグネシウム炭酸水素塩泉
04)三国一ノ湯:酸性アウミニウム硫酸塩泉
05)内湯(総湯):酸性硫化水素型含硫黄温泉
♨️ 見事な紅葉に癒され入浴
脱衣所もなく浴槽のみ作られた数少ない貴重な温泉だ。
蓮華温泉ロッジから徒歩数分のうちにぽっかりと開いた浴槽に入り、
大自然と風呂を一度に満喫する。混浴であることに注意いただきたい。
女性は斜面一番上の「薬師湯」に“女性専用”の札をかけて利用することもできる。
ちなみにロッジ内「総湯」は脱衣所も石鹸やシャンプー等、ひととおりの設備がある。
♨️ 一人入るといっぱいになる蓮華温泉「三国一ノ湯」
♨️ ササやダケカンバに囲まれた蓮華温泉黄金湯
見つけたんだとか。 現在も蓮華温泉では火山噴気帯から湯気が沸く様を
見ることができる。 1894年(明治27年)には、日本アルプスなどを
世界中に紹介したイギリス人登山家「ウォルター・ウェストン」が
来訪している。 筆者は女性だが野天風呂に入り、雪倉岳や朝日岳の見える
北アルプスの山並みを満喫した。凄まじい開放感を
感じることこのうえない。やや熱いがさっぱりしていて、体に柔らかく
染み込む内湯が筆者のお気に入りだ。
営業期間には注意が必要である。車やバスで蓮華温泉へ行けるのは林道が
開通する7月上旬から10月中旬で、ちなみに令和5年は7月5日から
10月15日までであった。春も営業しているが、車ではアクセス出来ない。
🧿 蓮華温泉にぴったりの山
登山の後に蓮華温泉を利用しやすい山は以下となる。
「天狗の庭」からの7月下旬の眺め
蓮華温泉からの登山は夏から秋にかけて、白馬岳、雪倉岳、朝日岳をめぐり
蓮華温泉へ戻るルートがあるが、体力勝負ルートとなる。ゆっくり
満喫するなら白馬大池まで行きピストンで蓮華温泉へ戻るのも楽しい。
もちろん白馬岳の雄大な眺めを堪能して1泊して戻るルートも素晴らしい。
NHK大河ドラマ『坂の上の雲』のエンディングに使われた小蓮華山を
思い出す登山者も多い。また体力に自信のない方にも、1周約3時間の
「蓮華の森自然遊歩道」がある。沢山の種類の高山植物や山野草が咲く
「兵馬ノ平湿原(へいまのたいらしつげん)」でも山と高山植物を十分に堪能できる。
■ 非火山性温泉の研究は現在進行形
温泉は大きく分けて「火山性温泉」「非火山性温泉」の2種類である。
火山性温泉はその名のとおり、火山のマグマにより温められた地下水が
噴出するもので、先に紹介した「蓮華温泉」「濁河温泉」がそれにあたる。
では「白馬塩の道温泉 倉下の湯」と「韮崎旭温泉」のような
「非火山性温泉」はどうして熱いのか? という研究が産業技術総合研究所で
されている。近年までは「地中は地表に比べて熱いから」というのが通説で
あったが、同研究所の発表によると、プレートが沈み込む時に高い圧力が
かかり脱水作用により発生した熱水であるとのことである。
まず有馬温泉について研究・発表し、他の地域の温泉も同様であると
示唆されている。今後の発表が楽しみだ。日本は4つのプレートが
押し合い、重なり合ってできているため、山は険しく川は急峻でプレートが
沈み込むからマグマが発生し、やがて火山になる。つまり山も温泉も
重なり合うプレートの産物である。そんな視点で考えながらの登山と
温泉もぜひ満喫してもらいたい。
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