いい会社に就職して、結婚相手まで理想的で・・・

《和子は又々こんな記事を見た~》

💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦

  SNSに無断で自宅を晒した

    “衝撃”な犯人の正体と、許せなかったこと

自宅は晒され続け

SNSの件、みんなに相談もしたいし、よかったらまた家に集まろうよ』

さくらがそうメッセージを送ると、すぐにOKの返信が返ってきて、

6人は再び集まることになった。もちろんその間も、小分けにしながら

毎日のようにさくらの家は晒され続けている。

本当は友人を疑うことなんてしたくない。でも、このままではずっと

モヤモヤした気持ちのままだ。 今回は一緒に参加してくれるという

清志にも背中を押され、さくらは友人たちとの2度目のパーティーを開催した。

「皆さん、こんにちは。だいたいの方は結婚式ぶりですかね?

料理の用意もできているので、どうぞ楽しんで行ってください」

「わあ、ありがとうございます」  「お邪魔しまーす」

さすがにSNSでのなりすましの件があったこともあり、誰もこれみよがしに

写真を撮るようなことはなかったが、料理が運ばれてくれば晴美は

スマホを取り出して写真を撮っていた。

「やっぱり晴れてると綺麗だね。東京を一望って感じだ」

晴美は窓の外の青空に写真を向ける。いいなぁ、とシャッターを押しながら

ぼやいていたが、いくらうらやましいからと言ってやっていいことと

やってはいけないことがある。暗くなったさくらの表情に気づいたのか、

となりに座っていた史織が耳元でそっささやいた。

「やっぱり、晴美……なのかな」

史織の目には、不安と疑いが混じっていた。

どちらかと言えば能天気でふわふわとしている晴美が、あんなことを

するとは思えない。いや、思いたくない。だが疑心暗鬼に駆られているのは

きっと自分だけではないのだ。

こうなったら腹をくくるしかないと思った。

さくらはスマホを取り出し、夫の提案通りの操作を行い、

SNSの無断投稿をしていた「celeb_na_hitomi」をブロックしたのだ。

ただし、その際にさくらが選択したのは「その人が持っている別の

アカウントもブロックする」という方法。夫に教えてもらったこのやり方で

ブロックすれば、それぞれ相互フォローになっているみんなのアカウントまで

同時にブロックされるため、件の迷惑投稿をしている人物のアカウントが

特定できるというわけだった。 さくらは「celeb_na_hitomi」を

ブロックしたあと、順繰りにみんなのアカウントを確認していく。

ブロックしたことで、アカウントが見られなくなったのは、晴美ではなく――

史織だった。 みんなが楽しく話しているなか、さくらだけが動揺を隠せずに

いた。 史織は何事もなかったように会話に加わっている。それどころか、

晴美が怪しいかもと言ってきたり、大丈夫と真っ先に心配して電話を

くれたのも史織だ。さくらは困惑の渦のなかで、全身にかいた嫌な汗と

悪寒に耐えるしかなかった。

とぼける犯人

   

          

「史織、ちょっといい?」

パーティは何事もなくお開きになり、みんなが楽しそうに帰っていくなか、

さくらは史織の肩をそっと叩いた。 「ん? どうしたの?」

史織は振り向き、柔らかい笑顔を見せた。でも、その目にはどこか警戒心が

浮かんでいるような気がしてしまう。

「少し話したいことがあるんだ。少しだけ、いい?」

さくらは努めて冷静な声を作った。史織は小さくうなずいて玄関に残り、

他のみんなを見送ったあとでさくらの方を向いた。

「私の家の写真、SNSに載せたの……史織だよね?」 直球だった。

「え? なに言ってるの?」

「とぼけないで。さっき、無断投稿のアカウントを『その人が持ってる

アカウントをまとめてブロックする』でブロックしたの。そうしたら、

見れなくなったのは史織のアカウントだった」

史織の表情が一瞬固まった。でも、すぐに作り笑いが浮かべられた。

「いや、たまたまじゃない? 私、そんなことするわけないし……」

「史織、もういいよ」さくらは首を横に振った。2人は黙りこんだ。

「なーんだ、バレちゃったか」 だが、長く重い沈黙のあとで史織は

あっけらかんとそう言った。さくらは肩透かしを食らったように

その場から動けず、声を出すこともできなかった。

「……さくらが結婚したって聞いたとき、正直すごく複雑だった。なんで

同じ大学出たのに、さくらはいい会社に就職して、結婚相手まで理想的で……

こんな素敵な家に住んで、幸せそうで……なんで全部うまくいくんだろって。

むしろ私、なんか悪いことしたって、ずっと思ってた」

「で、でも……あのアカウントは私が結婚する前から投稿してたよね?」

「そうだね。最初は、ほんの気まぐれだった。旦那は全然稼いでこないし、

姑は子どもはまだかって遠まわしに聞いてくるし、とにかく

イライラしてたから、気分転換にドレスアップして、良いレストランへ

行ったんだよね。その写真をSNSに載せたら、みんなが『すごい』

『憧れる』って言ってくれて……それが嬉しかったの」

「……だから、私の家の写真を無断で?」

「ごめん……」「私が怒ってるのは、それだけじゃないよ」

史織の肩がビクリと震える。

「投稿したことよりも、私が晴美を疑うように仕向けたこと。あれが、

一番許せない。史織は人を疑わせて、ほかの友達との関係を壊そうとした。

私は……そんな人を、もう友達とは思えないよ」

思わずさくらの目に涙がにじんだ。

「……さくら」

「史織、あのアカウントも写真もぜんぶ消して」

「……わかった」 「削除したら、もう帰って」

それ以上は何も言えなかった。史織はしばらく立ち尽くしていたが、やがて

さくらに言われた通りにアカウントを削除。それから無言のままドアへ

向かい、静かに家を出ていった。

さくらは玄関のドアが閉まる音を聞きながら、深く息を吐いた。心の奥に、

ぽっかりと穴が空いたような感覚が広がっていく。

本当の友達だと思っていたのに。

友情は壊れ・・・

   

史織が去ったあとも、さくらはしばらく玄関から動けなかった。こんなにも

呆気なく友情が壊れていったことに、何の実感も持てなかったのだ。

「……さくら」

やがて声がして振り向くと、後片付けを終えた清志が立っていた。

「聞いてたの?」 「うん」
彼は何も言わず、そっとさくらの肩を抱いた。その温もりに触れた瞬間、

張り詰めていたものがぷつりと切れた気がして、さくらは小さく息を吐いた。

「頑張ったね」

その言葉に、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。

「信じてたんだよ、ずっと。史織とは、なんでも話せると思ってたし、

あんなふうに思われてたなんて、夢にも思わなかった」

夫は何も言わず、ただ静かにさくらの背中を撫でてくれる。

「友情って、何なんだろうね」  さくらはぼんやりと呟いた。

信じていた人が、一瞬で他人のように思えてしまう。でも、もし史織がずっと

悩んでいたなら、さくらはもっと早く気づくべきだったのかもしれない。

本当に大切な関係はどう築けばよかったのだろう。

夫がさくらの肩をそっと離し、「飲み物、いる?」と優しく聞いた。

「ううん、大丈夫」

さくらはリビングを横切ってベランダへ出て、外の景色を見下ろした。

タワーマンションの窓から見下ろす夜景は、いつもと変わらず輝いている。

でも、今のさくらはそれをただ美しいとは思えなかった。史織は何を思いながら、

あの光を見上げていたのだろう。さくらは彼女のことをきちんと

わかっていなかったのかもしれない。やるせない気持ちを抱えながら、

さくらは近いのに決して手は届かない夜空を見上げた。

                                                                           ♾️♾️♾️ おわり ♾️♾️♾️

♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️♾️

【街鏡 そっと猫背の 老い伸ばす(シルバー川柳)】