「自宅を公開しちゃいます」SNSに・・・

   

 《和子は又々こんな記事を見た~》

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  無断で晒されたタワマン新居・・・

         疑わしきは「気心知れた友達」

  

「わぁ、すごい……!」

エントランスに入るなり、晴美が感嘆の声を上げた。彼女の明るい性格は

アラサーになっても変わらないらしい。

「ホテルみたいなロビーじゃん。こんなとこに住んでるなんて、さくら、

マジで勝ち組だね」  「いやいや、そんな大げさな……」

史織に大げさに褒められ、新婚のさくらは苦笑しながらも、少し誇らしい

気持ちになった。 ここは、夫と暮らし始めた都内のタワーマンション

エントランスは天井が高く、ラウンジにはシックなソファが並ぶ。

今回招いたのは、学生時代からの友人6人。個別には卒業してからも

ちょくちょく会ってはいたものの、全員が勢ぞろいするのは卒業旅行以来

だから6年ぶりだった。 エレベーターで高層階に上がり、自宅のドアを

開けると、さらに歓声が上がった。  「ひゃー! すごい!」

「これ、本当に家なの!? モデルルームみたい」

友人たちは次々と中に入り、広々としたリビングを見回す。大きな窓からは

都会の景色が一望でき、ガラス張りのバルコニーにはスタイリッシュな

テーブルセットが置かれている。

「これ晴れてたら夜景とか絶対ヤバいでしょ……」晴美がスマホを構えながら呟く。

「うん、今日は曇ってるけど、晴れてれば夜はすごく綺麗だよ。

ワイン飲みながらぼーっと眺めるのが好き」

「キャー! やっぱり勝ち組! さすが玉の輿!」

冗談交じりの言葉に、みんなが笑う。

特注した大理石のダイニングテーブルには、オードブルとサラダ、

朝焼いたばかりのバゲットを並べた。料理は得意ではないけれど、

結婚してから少しずつ練習している。「ほら、シャンパン開けるよ」

「待って待って、動画撮る!」晴美がスマホを構え、さくらは笑いながら

ボトルの栓を抜いた。勢いよく泡がはじけ、グラスに注ぐと、集まった全員が

一斉に拍手をしてくれた。 「さくら、結婚おめでとう!」

「ありがとう~!」

「でもさ、あのさくらがって感じだよね。大学のときは、全然恋愛に

興味なかったのに」グラスが重なり合う音とともに、史織が笑いながら

言うと、みんながうなずいた。

思い出話に花が咲き

   

「そうそう、バイトと勉強ばっかりで、彼氏の話なんて聞いたことなかった」

「それがマッチングアプリで大手コンサル会社のエリートと

結婚するなんて、人生ってわからないよね」

「ほんとほんと! どんな感じだったの? 最初からビビッときた?」

「うーん、最初は普通の人だなって思ったかな。でも話してるうちに、

価値観が合うなって感じて……」

改めて話すと照れくさくて、さくらはシャンパンを一気に呷った。

「ねえ、さくら。このソファどこのなの?」

今日は私がカメラマンと言わんばかり、動画や写真を撮り続けている

晴美がふと尋ねてくる。

「ありがとう。なんだっけな、イタリアのブランドで……これこれ」

さくらはInstagramのアカウントを見せる。

「へー! さすがのセンスだね。じゃあテーブルは?」

「ありがとう。テーブルは国産のだよ。旦那がこだわって買ってたんだけど、

ちょっと思い出せないや」

「本物の金持ちはブランドなんてこだわんないんだよ」

史織が横から茶々を入れてくる。晴美はそのあとも、写真を撮り続け、

さくらの部屋の家具に感心し続けていた。

そんな様子を見ながら、変わらないなと思う。結婚したり、仕事をしたり、

こうして環境が変わっても、関係が変わらず続いているのはきっと

すごく幸せなことだ。  「本当におめでとう、さくら」

会話が途切れた拍子に、隣に座った史織がそう言ってにっこりと微笑んできた。

「ありがとう」  さくらはグラスを持ち上げ、再び乾杯をした。

ネットでさらされる新居

友人たちとのホームパーティーから数日後、さくらのスマホが震えた。

『これって、さくらの家じゃない?』

メッセージを受信したのはこの前の6人が入るグループチャットで、

メッセージの下にはInstagramのスクショが添付されていた。

「……え?」 驚きのあまり思わず声が出た。さくらは続けて送られてきた

URLをタップする。 表示されたアカウント名は「celeb_na_hitomi」。

投稿をスクロールすると、「自宅を公開しちゃいます」というキャプションと

ともに、明らかにさくらの家とわかる写真が並んでいた。リビングの全景、

大理石のダイニングテーブル、バルコニーからの景色。もちろんさくらが

作ったアカウントではない。混乱しながら過去の投稿を見ていくと、さらに

信じられない写真を見つけた。それは、投稿主と思われる女性がどこかの

レストランでグラスを片手にポーズを決めている写真。顔こそ写っていないが、

ドレスの胸元が妙に強調されたアングルで、もはや下品な意図が

見え隠れしている。 おまけにどの投稿にも、まるで憧れを煽るような

キャプションがついていた。

『#タワマン暮らし #優雅な生活 #勝ち組の余裕』 手が震えた。

つまり、このアカウントの所有者は、あたかも自分がタワマンに

住んでいるかのように、さくらの家の写真を投稿しているのだ。

さくらは震える指でスマホを操作し、投稿者のアカウントにDMを送った。

『これ、私の家の写真ですよね? 勝手に載せるのはやめてください。

削除をお願いします』 すぐに返信が来ることはないだろうと思っていたが、

意外にも数分後に通知が鳴った。 『は? ひがみですか?

根拠のないこと言うのやめてください』

画面を見た瞬間、血の気が引いた。

心臓が強く打つ。言葉の意味を考えるよりも先に、自分の家の写真を

見知らぬ人間が勝手に投稿しているという状況にただ恐怖が押し寄せてきた。

「大丈夫?」 と史織から電話がかかってきたのは、そのあとすぐのことだった。

さくらは史織のアドバイスでとりあえずアカウントを通報したりはして

みたが、気分は晴れなかった。

「どうしよう。知らない人のカメラロールに家の写真があるとか怖すぎる」

「ねえ、さくら。こんなこと言いたくないんだけどさ、あの写真って、

この前の写真じゃない? オードブルとか、シャンパンの瓶とか」

「え、じゃあ、あの日来たみんなのうちの誰かってこと?」

言われて投稿を見返してみれば、たしかに『今日は友達が遊びにきたよ~』と

いうキャプションとともに載せられている写真に写っているのは、

ホームパーティのときのオードブルやシャンパンと同じものだった。

「確証があるわけじゃないけど、ほら、晴美とかすごい勢いで写真撮ってたし……」

信じたくなかった。

でも、家の中の写真を撮れるのは、あの日のメンバーしかいない。考えれば

考えるほどみんなのことが疑わしく思えた。

その夜、夫の清志に相談すると、しばらく黙りこんだあとで彼は冷静に言った。

「プライバシーの侵害だから、法的手段も取れるよ」

「……でも、そこまではしたくない」

さくらはため息をつく。別に訴えたいわけじゃない。もしあの日家に来た

誰かのなかに犯人がいるとすれば尚更だ。ただ、彼女たちに疑いの目を

向けなければならないことが、何よりも辛かった。

「なら、もう一度みんなを招いてみたら?」

「えっ……?」

「もう1度集まってみたら、何かわかるかもしれないよ。僕に考えがあるんだ」

たしかに夫の提案は効果的かもしれないが、同時に真実を知るのが

恐ろしくもあった。さくらはスマホを握りしめたまま、しばらく

考えてみたが、答えはすぐに出そうになかった。

   ● 犯人はいったい誰なのか、再び開かれた友人たちとの会合で意外な

正体が明らかになる。      ♾️♾️♾️ つづく ♾️♾️♾️

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【転んでは 泣いてた子が言う 「転ぶなよ」(シルバー川柳)】