おもうおもみ・・・

       

          🧿 命は重いと思う。

観念的な重みではなく質量としての重みだ。思うだけで、科学的な根拠は無い。

これくらいなら片手でいけるだろうと思い持ち上げた鉢が想像以上の

重量で驚く時。根が土を食い尽くし詰まりに詰まった根鉢に執念すら感じる。

剪定で鋸を入れた枝の刃が進むにつれてじわじわと肩に圧し掛かってくる

重みを押し返しながら鋸を動かす時の真っ向勝負感。

鉢底から突き抜けて下の土にしがみついたような根など、このまま

大地から引きはがしてよいものかとたじろいでしまう。

そういえば年の離れた弟がこの世に現れ抱いた時、想像していたよりも

重かった。その重さ約3,000~4,000グラム。

産まれたての赤子の重さにヒトとしての重さが重さなり、諸々を斜に

捉えがちな思春期の私は妙な納得をした。 それから今に至るまで、

己という肉といつの間にか背負い込んでいる無駄な感情などを

引き摺りながら生きている。重力は等しくこの地球上の物にかかるのだが、

私は私の身体と心が重い。植物が、根を張ることの尊さを、

根を張ることの強かさを、根を張ることの執念深さを

二の腕に感じながら、この命の強さと重みをどのように受け止めれば

いいのか、考えれば考えるほど恐ろしくなってしまうので、いつも思いを

振り捨てるように力づくで作業することになる。

   

造園業に欠かせない道具にチェーンブロックというのがある。

チェーンブロックとは、井戸の滑車の代わりに歯車装置、縄の代わりに鎖、

作業を停止する制動装置が備えられたテコの原理を利用した機器だ。

本体だけでは使うことはできず、天井や三脚に吊り下げて使用する。

樹木を植え付ける時、または移植のために掘り上げる時、庭石を動かす時等に

このチェーンブロックが活躍する。動かしたい対象物にバランスよく

三脚を建て、チェーンブロックを設置して木の幹や根に掛けたロープを

フックにかける。ジャラジャラと鎖を引く音に合わせて、対象物はゆっくりと

大地から離れていく。数トンもある樹木が人の両手の力だけで

動いていくのを眺めていると、バチカン市国バチカン宮殿の

システィーナ礼拝堂の祭壇にミケランジェロによって描かれたフレスコ画

アダムの創造」を思い出す。神によってアダムに命が吹き込まれる瞬間の

指と指の触れそうで触れ合わぬあの部分。

渋谷の植物園解体に際し、お世話になった造園屋さんが1株でも多くの

植物を生き延びさせようと苦心してくれた時も、狭い空間で重機を用いずに

少人数で作業するのに適したチェーンブロックだった。

推定1トンあったリュウケツジュの根の周りを掘り、

根巻シートと呼ばれる包帯のような布で根を巻き包み、折れやすい枝を

地面に接触させないように、地面に対して垂直に持ち上げる瞬間に

立ち会った。足元がふっと浮くような感覚。

それは、あまりにも軽々と私の手元から1本の木の命と

責任が離れたことを自覚した瞬間だった。

軽くてかるくてカル過ぎて、泣けるほど重かった。

   

一般的に樹木が根を張る広さは、その枝ぶりの広がりは樹冠*と同じ位だと

されているが、それは伸び伸びと生長できる自然の状況だけのことだ。

都市部の公園や街路では、地中に埋められた人工物や地上部に貼られた

ブロックやタイルなどに阻まれて根が広げられないのに、地上部ばかり

大きくなってアンバランスになり、台風が到来したりすると転倒したりする。

倒れた樹木を移動させようとしても簡単には動かせない。

自力で立っていた時には重力の存在など感じさせなかったのに、

一度倒れてしまうと起き上がるのも立て直すのも難しいものなのだ。

ちょっと一休みなどと思って寝っ転がってしまうと、

右の物を左に動かすのさえ面倒になるのは私も同じなのだが。

*樹木の上部、枝や葉の集まった部分

   

生まれた土地を離れ、育った土地とも別れ、学んだ土地に居場所が

見いだせず、魂を埋めた場所は永遠に還らぬ土地となった私は

また命を燃やすための土地を探しているが、未だ終の住処に辿り着いたと

感じぬままでいる。植物は種子として辿り着いた場所に根を下ろし芽吹く時、

何か思うところはあるのだろうか。植物には脳がないのだから思考とか

感情とかいうものは無いとされているので馬鹿らしい疑問だとは自分でも

分かっているが、しかし、落ち着ける場所や此処で良しと落とし所の

ある場所を、帰る場所を延々と探し続けている回遊魚の如き私には

不意に与えられた場所に深く根を下ろし生きることの理不尽さが恐ろしい。

   

ぱんぱんに詰まった根の間から土の欠片をふるい落とし、根を解して

新たな鉢に植え付けるとき、植物を定植するための穴を黙々と掘るとき、

この植物にとってこの場所が安寧の地であれと心の底から祈りながら

作業を進めるのだ。

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【遺産分け 位牌受け取る 人はなし(シルバー川柳)】