梅雨に見立てる・・・

       

この世にある美しいものを花で見立てたら──

こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。

そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せる、

「梅雨」に見立てたブーケです。手掛けるのはオランダ出身のフローリスト、

シェラー・マース。

   

梅雨とは

梅雨とは「つゆ」または「ばいう」とも読まれる、雨の季節を表す言葉です。

その名の通り、梅が熟すころに降る雨の意味でもありますが、梅の字を

「黴」に代え「黴雨」という表記もあり、こちらは黴(かび)が生じるころを

表したとも云われています。

また、梅雨入りは「入梅」とも呼ばれ、二十四節気五節句以外に設けられた

「雑節(ざっせつ)」のひとつですが、実際の梅雨入りとは異なり、

二十四節気の「芒種(ぼうしゅ)」に入った最初の壬*(みずのえ)の日である

例年6月11日前後となります。

*「壬」は「水の兄」の意味で、一般的に十二支と組み合わせて使われる

十干(じっかん)の一つであり、年や日などを表します。

   

    🔘 シェラーが描いたスケッチ

見立ての舞台裏

「今回は”ベースブーケ”という、吸水スポンジを使わず、花器の中に

投げ入れて作るスタイルのブーケを作ります。オランダではお店で作って、

このまま配達することもありますが、しっかりと固定されているので、

ブーケの形が崩れることはありません」

   

鮮やかなターコイズブルーのガラス花器にレモンリーフを器いっぱいに

挿します。この時、器の中は水だけ。たくさんのレモンリーフの茎が、

これから挿す花々を支える土台になります。

   

ぬいぐるみのようなふわふわとした手触りが特徴のラムズイヤーを

挿していきます。「仔羊の耳」という名前そのままの姿をしたハーブです。

   

次にシェラーが手に取ったのはグミ(茱萸)の枝。葉の表と裏は色が異なり、

表は明るいグリーン、裏はシルバー。見る角度によっては同じ枝とは

思えないほど雰囲気が変わります。

   

    🔘 鮮やかな紫のアジサイを加え、次いでライラックを挿していきます。

   

中心のしべ(蕊)が見える、ちょっと不思議な姿のまだ名前も付いていない

新品種のバラがアクセント。

   

美しい花と葉、強い芳香のあるアフリカンブルーバジルを加えます。

少し触れるだけでバジルの香りが漂います。

   

    🔘 鮮やかなイエローグリーンの花はアルケミラモリス、

            別名レディースマントル

5月から6月に小さな星のような花を咲かせます。今回は葉が

付いていませんが、水滴を弾くマント(マントル)のような葉も美しい花です。

   

    🔘 最後にタイツリソウ(別名ケマンソウ)を。

釣り竿のような茎にハート形のような花が一列に吊り下げされたように

見えることから、この名が付いたとされる花です。

完成、梅雨に見立てたベースブー

   

    🔘 梅雨に見立てたベースブーケの完成です。

「日本人は梅雨をジメジメとした時期と捉えるようですが、

オランダ出身の自分からすると、梅雨は瑞々しい季節のイメージがあります。

水をたたえたような、季節感のある花や枝を使って、ドラマティックに

仕上げました」

   

ブーケを持ち上げると、たくさんの茎が交差しているのがわかります。

それぞれがかみ合っているので花が動いてしまうことはありません。

「ベースブーケは水を入れた花器に生けて行きますが、生けている内に

茎から出る灰汁などで水が汚れてしまうので、仕上がった後は水を

取り替えます」 これは普段の花を飾る時にもいえますが、花瓶の中を清潔に

保つことで、花はより長く楽しめます。少しの手間ですが、花を飾る時に

参考にしたいプロのコツです。

   

至近距離で見ると、場所によって花たちの表情が全く変わるのがシェラーの

つくる花の素敵なところ。この角度はまるでウェディングブーケのようです。

「オランダの6月は日が長く、湿度が低くて過ごしやすい時です。

だからジューンブライドが多いのです。今では一年中いろいろな花が

手に入りますが、やはりその季節にしか咲かない花を使ったブーケは

特別なものなんです」

   

上から見てみると、鈍く光るようなアジサイが他の花を引き立てています。

光と影のコントラストが美しい部分。

   

バラの上に伸びたタイツリソウはまるで虹のよう。雨上がりの庭を

散歩しているような光景です。

   

今回の花材:(左より)レモンリーフ、ラムズイヤー、アジサイタイツリソウ

アルケミラモリス、ライラック、グミ、アフリカンブルーバジル、

バラ「ココット」、シャクヤク、バラ(新品種・名称未定)

   

   🔘 バラ「ココット」のフルーティーな香りを嗅ぐ

「このブーケは香りがよい花をたくさん使いました。バラ、シャクヤク

ライラック、アルケミラモリス、ラムズイヤー、そしてアフリカンブルーバジル。

香りの強さはいろいろですが、ひとつひとつの香りを楽しんで

いただきたいです」

今回のテーマ「梅雨」は、日本ではあまり好む人がない季節ですが、

オランダで育ったシェラーにとっては、みずみずしい季節であり、

季節のとらえ方ひとつにしてもお国柄の違いが表れているのがユニークです。

そんな彼がこのブーケのために選んだのは、光と影を表すような、

明暗のはっきりした花や草木の組み合わせ。

梅雨空の下では、濃い色の瞳は沈んだ色の美しさを感じ、シェラーのように

光を強く感じる淡い色の瞳には、より鮮やかに、みずみずしく映って

いるのかもしれません。

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【おんぶした 子をリストラで 又背負い(シルバー川柳)】