引きこもりは家族と社会の間に起きている問題
昨今、引きこもりに関連した悲しい事件がたびたびニュースになっています。
引きこもりは、悩みや苦労を家族で抱えているので、「原因はその家族にある」と
考える人が多いですが、そう単純なことではありません。
引きこもりの子を持つ親の年齢であるみなさん世代は、比較的お金に
余裕がある方かもしれません。ですから、社会に頼らずに、自身の経済力で
子どもを養い続けられることも多いために、引きこもりというものは
その家族の問題であるというイメージが持たれやすいのです。
でも実際は、引きこもりは、その家族と社会の間に起きている問題です。
「自己責任論」が強い日本だからこその風潮
日本には健康で文化的な最低限度の生活を営むために、セーフティネットと
してさまざまな社会保障のサービスが用意されています。
それらの社会保障を活用するのは、私たちの権利で当たり前のことです。
でも今の日本では、社会保障に頼ることに後ろめたさがあり、「私的」に
解決する方がよいという風潮があります。何か問題を起こした人が
いたとしたら、その責任は本人が負うべきで、他の人に助けを求めるべきで
ないという「自己責任論」が強く、自分の面倒が見られない人が社会保障に
頼るという思い込みが、社会全体に強い。それがあるから、引きこもりは
「その家の問題」となってしまうのです。
私たちは、誰もが交通事故に遭ったり、大切な人を亡くしたり、いろいろな
理由で突然生きにくさを抱えてしまう可能性があります。 引きこもりも
その結果の一つ。そういうことと背中合わせだからこそ、お互いが支え合う
仕組みによって生きていることを再認識しないといけないのです。
社会保障は、この社会は自分と他人がお互いに支え合って生きるものだと
いうことを、誰もが了解して成り立つものです。引きこもりも、みんなで
支えるものであるという認識が必要です。
自分の子を「問題」と思うのではなく、応援しよう
引きこもりの子を持つ親は、育て方が悪かったと自分を責めてしまいがちで、
当の子どもは自分が怠けているからと考えてしまうものです。親も本人も
自分を見るまなざしが厳しいのです。 何でも自分で抱え込んでいても、
解決はできません。実は、引きこもりである本人は、「引きこもりである今の
状態はよくない」と問題意識を持っているものです。現状を脱却したいのだけど、
うまくできていない状況で、社会に復帰してほしいと考える親と、実は
一緒の方向を向いています。 家族はそのことを認識してください。
自分の子を「問題」と思うのではなく、応援してあげてください。
相談することは恥ずかしいことではない
元農林水産事務次官の家族の悲しい事件がありましたね。親は支援機関に
相談しようと思ったけれど、子どもに恥をさらすなと言われるのでは
ないかと考えて、窓口へ相談に行かなかったということです。そういう
意味では、「恥をさらさない」という日本の家族の文化が出てしまったのかも
しれません。相談しやすい身近なところに、ちょっと相談してみましょう。
決して恥ずかしいことではありません。家の中で抱えている引きこもり問題を
社会に発信しましょう。社会全体で担わなければならないものですから。
相談の窓口はどの地域にもあるので、そことつながってください。本人が
窓口まで行けないのなら、親が訪ねてもいいでしょう。べてるでも
そういうことはあります。15年間引きこもっていたある人が危機感を抱き、
「自分は困っているから、誰かに相談してほしい」と言われた親がべてるに
来た例がありました。その引きこもりだった子どもは、今ではべてるの
職員として働いています。今は日本中どこでも相談できる窓口がある
時代ですから、最初から求めた答えに出合えなくても、諦めずに相談を
続けて社会とつながっていきましょう。「自分の苦労」を「社会の苦労」に。
そうすれば、新しい方向性が見えてくるでしょう。
問題を抱える人に原因があるわけではない
悩みや苦労を表に出せば、自分だけが抱えていたその悩みや苦労を、
みんなで抱えていくことができます。一人で苦労していると、どうしても
孤立してしまいます。しかし、情報公開を行えば、人とのつながりを
取り戻すことができます。ある問題をテーマに弱さの情報公開をするとき、
その場にいる人たちは、その問題を抱えている人に原因があると考えがちです。
それを防ぐために「人」と「問題」は切り離してください。その上で、
なぜ問題が起きてしまうのか話し合います。すると、苦労を抱えていた
本人も思いもしないところに、その問題が起きてしまう構造があることに
気付き、対策を講じることができるはずですから。
当たり前のことですが、人間関係は難しいものです。私たちは、その難しい
社会の中で自分の居場所を模索しています。
ため息をつくことでストレスを解放するAさん
べてるには、ため息をつくことでストレスを解放するメンバーのAさんが
います。ため息を聞いた周りのメンバーは、「私がここにいるのが嫌で
ため息をついたんでしょ?」と怒り出して、けんかになってしまうことが
幾度もありました。 そこで、弱さの情報公開を行うと、ため息をつく
Aさんは「ため息は私の癖で、ため息をつくと心が楽になる」と言い、
周りの人は、「ため息を聞くと、不快に感じる」などと情報を出し合って
いきました。このやり取りを経て、Aさんは、ため息を多くつきそうな
ときは、「今日はため息が多くなるかもしれないから」とあらかじめ周囲に
伝えるようになりました。 すると周りの人も、自分へのため息でないことが
わかるので、以前のようなトラブルは起きなくなりました。
情報公開で、ぎすぎすしない居心地のいい場所を
弱さの情報公開という作業を一つ一つ行うことはとても面倒ではありますが、
「思い」や「情報」を出し合って暮らせば、ぎすぎすしない居心地のいい
場所がつくられていきます。 弱さを情報公開すると、自分が見ている
世界が、この世界のすべてではないということに気付くことができます。
そしてお互いに認め合い、支えられる世界が出来上がっていくのです。
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