人間関係の困難を減らす【生きるヒント】―3


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   人間関係の困難を減らす

                                オープンダイアローグとは

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心の病は人と人の間にこそあるというフィンランドの精神医療の

取り組み「オープンダイアローグ」が重視する「対話」から、

生きやすさのヒントを探っていきます。

日本の自殺希少地域における自殺予防因子の話をしました。

自殺希少地域に暮らす人たちは、悩みを持った人の話をよく聞くことを

しますし、悩みに対して周囲の人たちは何とかしようと互いによく

考えています。また、「人間は多様である」「相手は変えられない」と

理解している方が多いように思います。自殺希少地域では、そうしたことの

連続により結果的に自殺で亡くなる人が少ないのだと感じます。

フィンランドでは同様のことを精神医療の取り組みとして行ってきました。

今回はそこから、生きやすさについて考えたいと思います。

フィンランド西ラップランドで行われている

「オープンダイアローグ」では、「対話」を重視します。みなさんは、

「対話」というとどういったものを考えますか? 人と人が話をすること、

つまり「会話」には「モノローグな会話」と「ダイアローグな会話」の

2種類があります。「モノローグ」は「独白」という意味なので、

対話ではありません。対して、「ダイアローグ」とは、ずばり「対話」の

ことで、「『聞く』と『話す』を丁寧に分けて重ねる」という意味が

込められています。

「オープンダイアローグ」の作法

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さあ対話しましょう、と言ってもすぐに対話的になるのは難しい

かもしれません。対話のための作法をいくつか知っていると良いでしょう。

話を最後まで聞く

まず聞くときは、「でも」「いや、そうじゃなくて」などと反射的に否定などは

せずに、人の話を最後まで聞き切ること。そうでないと話を遮られた側は、

「言えていない」「聞いてもらえていない」と感じ、「言っても無駄」

「傷つきたくない」と、会話自体を避けることになりがちです。

         「私は」と自分の意見を述べ、

                              相手の意見を決めつける言い方はしない

すべてを聞き切ったら、あなたの話す番です。その番になったら、

「私はこう思う、こう考える」と自分を主語にした話し方をしましょう。

このとき重要なのは、「あなたはこう感じたでしょう?」と人の意見を

決めつけた物言いをするのではなく、「あなたはこう感じたと思うんだけど、

それは合っている?」と聞くこと。客観的事実のような話し方ではなく、

主観的に話します。相手はどんなに親しくても他人です。どこまでいっても

相手はわからない存在と認識して、他者性を尊重して会話をします。

夫婦間・家族間・友人間でも「対話」の作法は同じ

これは夫婦間、家族間、友人間、どんな関係性でも同じことです。

お互いに「聞いてもらえた」「わかってもらえた」という経験を積んで

いくと対話の大事さが理解できます。言い合いになっても

「私が先にしゃべるね」と言って「聞く」と「話す」を分ける練習をすれば、

いずれお互いが本当に言いたいことを伝えられるようになっていきます。

関係する人を集める

問題に関わる人たちを集めて話をします。対話を進める中で、新たな人が

話題に登場してきたら、その人も次回の場に呼ぶといいでしょう。

「本人のいないところで本人の話をしない」ということが

とても大切にされています。

オープンダイアローグにおける目標とは?

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「対話」を重要なものと位置づけたオープンダイアローグですが、

その原型はフィンランドで1960年代に始まった精神医療

「ニード・アダプテッド・トリートメント」です。これは初診の患者と

会うときに、患者本人だけでなく家族も招き入れ、本人や家族にニーズを

聞くものでした。心の不調につながるいきさつにじっくり耳を傾けて、

どんな助けが必要かを中心に聞くものです。。この試みは入院患者数を

大幅に減らすことができ、結果的にフィンランドの精神医療の国策になり、

オープンダイアローグへとつながっていきました。

オープンダイアローグでは、「人と人の関係の中で病は発症する」と

考えています。ですから、対話を通してソーシャルネットワーク

(人と人の関係性)を見ることを大事にします。

生きづらさの理由はどこにあるのか? 精神疾患の発症の背景は?

と患者の人間関係を見て専門家は動きます。患者に話を聞くとき、

少なくとも2人の専門家が患者のもとに行き、対話が起こるように

会話を進めます。この対話を促進する専門家は、「話す」と「聞く」を

分ける援助を繰り返します。

症状は軽減できても人間関係まで解決できないときは

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一般的な診療は医療者と患者が一対一で行います。しかし、話を聞く場所

(病院など)と、心に病を持つ原因となった場所(日常の人間関係のある場)が

異なれば効果には限界が出てきます。 原因の場から離れたところで

症状が落ち着き、医師と患者が話せるようになったとしても、いざ日常の

人間関係の場に戻ると話ができないことはよくあります。

これは、症状は軽減できているのに、人間関係の問題までは解消できていない

状態です。病は人と人の間で起きているとすれば、日常の人間関係から

患者を切り離してしまっては根本的な問題解決は難しいものです。

そこでオープンダイアローグでは、本人が抱えている問題に関連する

家族や知人に一堂に集まってもらって、対話の場に本人の人間関係を

持ち込みます。そして進行役を中心に一人ずつ対話を行っていきます。

一人が話し終えたら、進行役が次の人に話を振ってまた聞きます。

そうして対話を続けていくと、悩む本人や周りの人から思いがけない

言葉が出てきたりして、悩みの原因を取り除くためのヒントが徐々に

見えてくることがあります。そうするとその話を起点に、その場にいる

人たちから他の話やさまざまな提案が出てきます。その場にいる人たちは

それらをもとに、自分が進みたい方向を選択して次第に問題解消に

向かっていきます。私たちのクリニックでもオープンダイアローグを

取り入れた医療を行っています。支援者に依頼されて、引きこもっている

独居の方と会いました。初めは対話もままなりませんでしたが、

ケアマネジャーなど関連する人を増やして対話の輪を大きくしながら

関わりを続けました。 すると話題にご家族が登場するようになって

実際に会うことになったり、徐々に変化が表れてきました。さらに

対話を続けて1年くらいすると、家の外で近所の方と話をされるように

なりました。対話を続けてきたことが、何か意味を持ったように感じます。

薬で解消しない問題が「対話」で軽減できることも

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「病気」に薬を処方すると、症状だけはすばやく解消できることもあります。

一方、オープンダイアローグで行う対話は、困りごと自体を今すぐ完全に

解消できるとは限りません。現在抱えている問題への糸口がわからず

モヤモヤが続くこともあります。それでも困りごとの背景……

言い換えれば生きづらさの原因となっている人間関係の中で答えを

探ることで、困りごとを軽減できることでしょう。そのことは、

今後の人生にとってもきっと助けになります。

対話ができれば、相手が抱えている生きづらさを共有して何か力に

なれるかもしれません。または自分が悩んでいたら、同じように誰かが

助けになってくれるかもしれません。ですから、まずは「聞く」と「話す」を

分けることから始めてみてください。やがてあちらこちらで対話が起これば、

もっと世界は生きやすくなっていくはずです。

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【孫来りゃ 爺婆喧嘩 どこえやら(シルバー川柳)】