他郷阿部家の暮らしのリズム【暮らし】―2


     f:id:akicyan6041:20210509170332j:plain

 衣料ブランド「群言堂」を運営し、日本古来の暮らしの良さを現代に生かす

術を発信する「石見銀山生活文化研究所」の代表が再生した宿

「他郷阿部家」がある石見銀山を編集部員が訪ね、町と人がつくる緩やかな

時間を味わってきました。

いざ、縁結びの地、島根県

島根県。一年に一度、日本中の神様が集う出雲大社のあるところ。今では

縁結びのパワースポットとしてあまねく男女を魅了していますが、

この「縁」とは本来、生きとし生けるものが共に豊かに暮らすための

結びつきをあらわすものだそうです。そんな縁結びの名前を冠した

空港から、車で1時間と少し。世界遺産にも登録されている石見銀山

見えてきます。かつて銀山として栄え、その頃に使われていた古い建物が

多く残る町。その町並みに溶け込むように、ひっそりと佇む宿

「他郷阿部家」がありました。

   f:id:akicyan6041:20210509170424j:plain

                      f:id:akicyan6041:20210509170459j:plain

石見銀山の町並み。瓦の産地としても有名で、高台から見下ろすいらかの波は

見事なものです

屋内に落ちる影の美しさ

「他郷阿部家」は、1789年に建てられた武家屋敷を、彼女が

実際にそこで暮らしながら10年以上かけて、よみがえらせたもの。

それを宿として開放し、同じ島根県の方から遠く海外の方まで、

あらゆる人々を迎え入れています。訪れる者をそっと包み込むような、

日本家屋らしいしっとりとした屋内。訪れたのは熱い日差しの照りつける

7月の終わり。外のまぶしい光から一転、目がほっと安まる心地がします。

    f:id:akicyan6041:20210509170536j:plain

日本の古い家屋は、今の家に比べてほの暗く、影になるところが多いのが

特長。幼い頃に遊んだ親戚の純和風の家にも影の落ちる場所が多くあり、

かくれんぼのときには重宝しました。その分、五感が鋭くなるのか、

木や畳の匂いが強く記憶に残っています。そんなことを考えながら覗いた

阿部家の厠(かわや)には、壁に貼られた「陰翳礼讃」の一節が。

その4文字に深く感じ入りました。 当初の趣を十分に残しつつ、彼女の

手によってモダンなしつらいに生まれ変わった阿部家。懐かしいながらも

洗練された空間で、心も体もゆるんでいきます。

   f:id:akicyan6041:20210509170608j:plain

外から差し込む光と布やガラスの落とす影が美しいコントラストを生みます

   f:id:akicyan6041:20210509170633j:plain

古くからあるものを生かし、新しい空間によみがえらせた内装

 鳥やアイガモまでが暮らしやすい町

一歩宿の外に出れば、そこは楽しみに満ちあふれた散策コース。

古い武家屋敷や民家を改造した素敵なお店が、そこかしこに見られます。

左右に気を取られて進む道すがら、なにやら頭の上をスイッと通り抜ける

影が。ツバメ! それも一羽ではなく、およそ十羽弱。同行したカメラマンも

夢中でシャッターを切ります。よく見ると、町のあちこちにツバメの巣が。

聞けば町をあげてツバメの子育て応援をしているとのこと。

他郷阿部家の近く、彼女がデザイナーを務める衣料ブランド

「群言堂」本店のギャラリーの横にも、格好よくデザインされたツバメの

巣が吊り下げられています。

   f:id:akicyan6041:20210509170706j:plain

                      f:id:akicyan6041:20210509170739j:plain

裏道に回ると、石見銀山生活文化研究所の本社の茅葺(かやぶき)屋根が

見えます。その目の前には、社員のみなさんが丹精込めて作り上げた

水田が。青々とした苗の間から泳いできたのは、なんとアイガモの

赤ちゃんたち。赤ちゃんといっても、もう既に大きさは一人前。でもまだ

生え変わっていないふわふわとした産毛がなんともかわいらしく、

見ているだけで心が癒やされます。 聞けばアイガモは、稲をよけて雑草だけを

食べてくれる優秀なスタッフだそう。こんなところにも、昔ながらの知恵が

生かされていました。

   f:id:akicyan6041:20210509170810j:plain

 本当の夜の暗さを思い出す

そうこうするうちに日が沈み、夕食の時間。他郷阿部家では、宿泊者全員と

彼女やスタッフのみなさんも加わり食卓を囲みます。この日は全員で5名。

新鮮な野菜のグリル、ふっくら煮つけられた魚、舌ざわりなめらかな蒸し鶏

塩をキュッと利かせたおむすび……。静かに始まった夕食は、お酒と食事が

進むにつれ次第ににぎやかさを増し、おしまいには隣にある蔵を改修して

作られたバーに移って、夜更けまで歓談は続きました。

そのあと、檜(ひのき)のお風呂にゆっくり浸かり、下駄を履いて外へ

出れば、漆黒の闇。足元に気を付けながら進むと、昼間光をたたえ

流れていた川の、せせらぎだけが耳に入ります。こんなに真っ暗な

夜を体感するのはいつぶりだろう。そんなふうに思いながらひと

巡りして帰れば、阿部家に灯る優しい光が迎えてくれました。

    f:id:akicyan6041:20210509170844j:plain

おいしい食事を作り出す他郷阿部家の台所

   f:id:akicyan6041:20210509170929j:plain

 寝室に吊られた蚊帳は青く染め上げた麻で出来ています

 人の優しさに守られて、出発

    f:id:akicyan6041:20210509171009j:plain

ぐっすり眠った翌朝は、再び快晴。

帰る前に銀山の観光に行こうか、と出発準備をしていると、昨日まであった

日焼け止めが見つかりません。しまったどこかに忘れてきたかと思い、慌てて

「群言堂」のお店のスタッフさんに日焼け止めを売っているところがないかと聞くと、

近所の雑貨店にあるかもしれない、と言いつつ「よければ私のを使いますか?」と、

あっという間にバックヤードから私物のポーチを持ってきてくれました。

ありがたく顔に塗らせていただいて、念のためとその雑貨店に立ち寄れば、

「売ってはないけど、うちの娘が忘れていったスプレーみたいなのがあるよ」と

言って、シューッと私の首や肩にかけてくれます。

日焼け止めの形をした人の優しさに包まれ、いざ出発。2日しか滞在しなかったのに、

もうすでにふるさとの家のような気持ちです。

名残惜しい気持ちであとにした他郷阿部家は、来たときと同じ静かでと落ち着いた

佇まいで、「いってらっしゃい」と送り出してくれました。

銀山の入り口と、銀山から帰る途中に見つけた立派な樹。石見銀山では

ボランティアガイドの方が、当時の様子をじっくり解説しながら中を案内してくれます

   f:id:akicyan6041:20210509171028j:plain

銀山の入り口と、銀山から帰る途中に見つけた立派な樹。石見銀山では

ボランティアガイドの方が、当時の様子をじっくり解説しながら中を案内してくれます

💤💤💤💤💤💤💤💤💤💤💤💤💤💤💤💤

     f:id:akicyan6041:20210509173259j:plain

和子の生まれ育った実家は大正10年前後に建てられた家だと思うのですが、

何となく懐かしい故郷を思い出させて頂きました。

【見くびるな 賞味期限は 切れとらん(シルバー川柳)】