和子の生い立ち-82〜父の葬儀〜

実家に帰って聞く所に依ると・・・
兄ちゃんが「俺も冬の雪の降る間、何処かへ出稼ぎに行こうかな?」って
父に本気で言ったのか、冗談で言ったのかは判りませんが言ったそうです。
其の事を父は真剣に受け止め、母に「しーこが『出稼ぎに行く』って
言ってたけど、女房や子供に寂しい思いをさせたらあかんで『行くな』って
言って来い」と・・・母はそんなに急ぐ事も無いから「後で逢ったら
言って置くよ?」と言うと父は「今すぐに言って来い」と言って
聞かなかったそうです。仕方なく母はブツブツ文句を言いながら
兄ちゃんの家へ・・・母が兄ちゃんの家へ行ってる間にあにやんが山から
帰って来たそうです。父と母の会話を聞いて姉さんは不思議に思い
帰って来たあにやんに「今お爺さんが変な事を言ったから一寸覗いて〜?」
早速あにやんは隠居の父の寝て居る姿を見たら異様な鼾を掻いて
眠って居たそうです。慌てたあにやんは早速大杉先生に往診をお願いし
「脳溢血」と・・・


11時頃に自宅に着くと父は母屋の方に寝かされて・・・
当時は未だ実家の方は土葬で棺も座管でした。お通夜の始る前に
親族で湯灌(全身を綺麗に清拭し棺に納める)をし故人に触れた者は
裏口から家より下の河にお清めに行く習慣が有りみんな2月の寒い中
はだしで樋田ヶ谷の河に・・・


葬儀も父の時にはお坊さんが6人位で祭壇とお坊さんで座敷は一杯
出棺も血縁の濃い人は腰搔き、先頭に姉婿さんが裃を着て其れに続き
お坊さん、孫の持つ提灯、次は君子の旦那さんが太い青竹を突いて・・・
次に棺の後に又孫の持つ提灯、その後に女性、一番最終に和子の夫が
やはり太い青竹を突いて・・・とにかく30数年昔の事で記憶は
定かですが、其れはそれは見事な珍道中でした。
其の行列を見に来る樋田の人は一寸垢ぬけをした夫を見て「あの人誰や?」
「あれはかーちゃんの婿さんよ〜」「え〜かーちゃんって何処へ嫁に
行かったの?」「東京よ〜」「へ〜〜〜?」って
和子はその話しを聞いて面白くって笑いそうに成り困った事が印象に・・・