和子の生い立ち-75〜あれは俺のお袋じゃ無い〜

一寸お話しが前後しましたが、産婦人科に行って「おめでたです」と
先生に言われたのが、結婚をした年の10月でした。
結婚して初めて樋田に帰った時は8月のお盆休みで勇ちゃんが
「車で連れて帰って遣る」と言って未だ東名が全部開通して無くって
又勇ちゃんの寄り道で散々な思いをして帰りましたが、今度は暮れから
お正月に掛けて田舎に・・・
折角結婚する時に振袖まで作って貰ったのに・・・お腹に赤ちゃんが出来たら
もう振袖を着る機会が無いから「田舎に帰って振袖を着て京都へ行こう」と
夫と約束をし、和子はルンルン気分で喜んで居ました。
段々と暮れも押し迫り、田舎に帰る日も近く成った有る夜、夫は「田舎に
行かないから和子一人で行って来れば〜?」って言いだしました。
「そんなの嫌だ〜一緒に行って着物を着て京都へ行こうよ〜〜〜」って
夫はどうしても「行かないから一人で行って来れば〜?」としか言わない?


其の時は未だお見合いで結婚し、夫も「和子の実家の印象が悪かったから
行かない」とは言えず「行かないから一人で行って来れば〜?」と
ばかりでした。和子は「姉ちゃんや君子たちが夫婦で帰って来るのに新婚の
和子が一人で帰るのなんか嫌だ〜〜〜。ね〜行こうよ〜」ってせがみましたが、
夫はどうしても「じゃ〜行こう」とは言いませんでした。
和子は「じゃ〜私も行かない〜姉ちゃんや君子が夫婦で帰って来るのに
和子だけ一人で何て絶対に嫌だから帰らない。でも〜折角「かーこがもんて
きよる。(帰って来る」って楽しみに待っているおかちゃんが可哀そう?」って
和子はそんな事を思ったら悲しく成って泣いちゃいました。
すると夫も大粒の涙を零し・・・「和子は待って呉れるお袋が居るから良いよ〜
俺にはお袋は居ないんだよ〜」って泣きだしちゃって・・・びっくり???
思わず「どうしたの?」って聞くと・・・「あれは俺のお袋じゃ無い
俺のお袋は5歳の時に死んじゃって居ない」と初めて聞かされて・・・
其れから延々と夜中の2時頃までお互いの苦労ばなしをして結局は
田舎に帰る事に・・・